柾木政宗『ネタバレ厳禁症候群 ~So sign can't be missed!~』(講談社)
あなたは一冊の文庫を手に取り、読み始める。
登場人物らしきイラストが入り乱れた表紙でページ数は三百もない。
序章を読んだ時点であなたは気づく。探偵と助手は自分たちがミステリの登場人物であることを知っていて、それをネタにしていることに。この本がメタ視点のユーモアミステリなのだ、と。
さらに読み進めるにつれてあなたはトリックの予想がついてしまう。ありきたりと言えばありきたりだが、登場人物たちですらそのことをネタにしているからダミーかもしれない。
そう考えながら読み進めると、いくつかの殺人事件が発生し、探偵と助手もピンチになったりしながら、ようやくたどり着いた解決編。
犯人を指摘する推理自体は論理的で立派なもの。
だが、前代未聞のトリックから導き出される事実を目にしたあなたの脳裏にかつて味わった感動――あるノベルスの帯文――が浮かぶだろう。「大トリックがまだ残っていた!」と。
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古野まほろ『天帝のみはるかす桜火』(講談社)
文章を恣意的に歪めて解釈したり、質問を意図的に曲解した上で回答したりと、日本語自体や論理的であることが軽んじられがちな昨今。さまざまなシチュエーションにおける、手続き的正義を達成する手段としての論理を存分に堪能できる短編集である。
――といったふうに難しく構える必要はまったくない。
この作品は、軽やかな筆致で若々しい物語が綴られていくから。
だからこそ、探偵小説の悲劇を、探偵役の偽善を、解決の虚構性を楽しむことができる。
作者の織りなす伏線と論理と真相の三位一体に、風味として青春のほろ苦さを加えたスマートな作品集は爽やかな薫風とともにあなたの前を流れ、そして新たな道を指し示す標[しるべ]となるはずだ。
ところで本作はデビュー作から連なる天帝シリーズが始まったレーベルへの実に7年ぶりの帰還である。巻末で予告されている続編への期待も込めて、最後にひと言。
心の底から、おかえりなさい。
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