坂嶋流記録庫

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城平京『虚構推理 スリーピング・マーダー』(講談社)

 探偵は証拠に証拠を積み重ね、たったひとつの真実にたどり着く。
 だが時に、恣意的な証拠の選択や、論理の飛躍のせいで間違った結論にたどり着くことがある。そして一般的に、事実と異なる結論は悪である。
 しかし、このシリーズは違う。
 推理を口にするものは、結論が事実ではないと知りつつ披露している。そこにあるのは聞き手を説得するため、確かな証拠からスタートした確かな推論によって、真実と見分けのつかない偽りの真相をでっちあげる姿勢である。
 説得力のある真相で納得させることができれば、事実かどうかは二の次、という逆説的なこのシリーズの特徴は本作でも健在だ。表題作の短編では〝妖狐に依頼した殺人事件を人間が実行したものと証明〟すべく、登場人物たちが論理をひねり出す様はまさに虚構を推理する本シリーズならではのものである。
 ただし、シリーズの流れから見ればこの連作短編集はメインの前に出てくる前菜に過ぎない。〝彼女〟が本格的に動き出す、次作に期待したい。
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