名倉編『異セカイ系』(講談社)
冒頭からフルスロットルで展開される軽妙な関西弁と迫り来るセカイでなろうなメタ物語に惑わされてはいけない。
ここにあるのはどんなに困難で理不尽な運命が立ちはだかろうと、それを乗り越えようと懸命に努力を続ける作者たちの物語だ。そして何があっても登場人物を生かそうとする読者の物語でもある。
そして読み進めるうち、〝君〟も物語のなかへと否応なく取り込まれていく。作者はもちろん、読者も作品の一部であり、登場人物のひとりに過ぎず、万能の存在ではないと気づくだろう。
そして、真実に辿り着いたとき――
あなたは気づく、物語の力に。
物語は壁を打ち壊せることに。
そしてその力は作者だけでなく、読者の存在があってこそ生み出されるものなのだ、と。片方だけではダメなのだ。両者の幸福な共犯関係があってこそ、読書という愉しみがもたらされるのだ、と。
読了後、読者も作者も幸せになれる――そんな良い世界がここにある。
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