坂嶋流記録庫

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古野まほろ『天帝のみはるかす桜火』(講談社)

 文章を恣意的に歪めて解釈したり、質問を意図的に曲解した上で回答したりと、日本語自体や論理的であることが軽んじられがちな昨今。さまざまなシチュエーションにおける、手続き的正義を達成する手段としての論理を存分に堪能できる短編集である。
 ――といったふうに難しく構える必要はまったくない。
 この作品は、軽やかな筆致で若々しい物語が綴られていくから。
 だからこそ、探偵小説の悲劇を、探偵役の偽善を、解決の虚構性を楽しむことができる。
 作者の織りなす伏線と論理と真相の三位一体に、風味として青春のほろ苦さを加えたスマートな作品集は爽やかな薫風とともにあなたの前を流れ、そして新たな道を指し示す標[しるべ]となるはずだ。
 ところで本作はデビュー作から連なる天帝シリーズが始まったレーベルへの実に7年ぶりの帰還である。巻末で予告されている続編への期待も込めて、最後にひと言。
 心の底から、おかえりなさい。
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