坂嶋流記録庫

Inverse Archives

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

森博嗣『それでもデミアンは一人なのか?』(講談社)

「これは、とても静かだ」 かつて森博嗣自身がある作品を評した言葉だが、この作品を読んでいるあいだ、その言葉が頭に浮かんでいた。 作中では銃撃戦も起きればカーチェイスも起きる。だがそれでもたぐいまれなる客観性を有した主人公のフィルタを通すと物…

市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社)

『そして誰もいなくなった』や『十角館の殺人』、そして本作のような作品は、クローズドサークルもののなかでも〝全滅〟という一段高い縛りを設けている。 そのおかげで、レギュラー陣が生き残るだろうという安心感を与えず、緊張を保ったまま話を進められる…

相沢沙呼『雨の降る日は学校に行かない』(集英社)

この短編集の主人公たちは〝隅っこのひと〟たちである。 場の中心からはじき出されたひと、自ら出て行ったひと、そして中心と隅のあいだで揺れ動いているひと――さまざまな主人公たちは、世間と自分のズレ、そして外側の自分と内側の自分のズレに傷つき、ひと…

城平京『虚構推理 スリーピング・マーダー』(講談社)

探偵は証拠に証拠を積み重ね、たったひとつの真実にたどり着く。 だが時に、恣意的な証拠の選択や、論理の飛躍のせいで間違った結論にたどり着くことがある。そして一般的に、事実と異なる結論は悪である。 しかし、このシリーズは違う。 推理を口にするもの…

Short Reviewはじめました。

7月から毎週月曜日に400字程度のShort Reviewを書き続けてみることにしてみました。第1回目は陳浩基『世界を売った男』です。 画面を下にスクロールするか、右にあるLinkのShort Review一覧から進んでみて下さい。レビューというと、かつてミス研時代にブ…

陳浩基『世界を売った男』(文藝春秋)

記憶喪失は物語の自由度を広げる。 記憶が失われた部分には、数多くの物語が嵌まる可能性が存在する。その〝可能性〟は多くの展開を想像させうるため、固定された先入観が読者に根付きにくい。そして読者に先入観がない状態は、終盤におけるどんでん返しの不…