坂嶋流記録庫

Inverse Archives

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

柾木政宗『ネタバレ厳禁症候群 ~So sign can't be missed!~』(講談社)

あなたは一冊の文庫を手に取り、読み始める。 登場人物らしきイラストが入り乱れた表紙でページ数は三百もない。 序章を読んだ時点であなたは気づく。探偵と助手は自分たちがミステリの登場人物であることを知っていて、それをネタにしていることに。この本…

古野まほろ『天帝のみはるかす桜火』(講談社)

文章を恣意的に歪めて解釈したり、質問を意図的に曲解した上で回答したりと、日本語自体や論理的であることが軽んじられがちな昨今。さまざまなシチュエーションにおける、手続き的正義を達成する手段としての論理を存分に堪能できる短編集である。 ――といっ…

綾辻行人『人間じゃない』(講談社)

館シリーズの集大成的位置づけとされた『暗黒館の殺人』は、かつて作者によって極彩色の暗黒色と称された。ありとあらゆる色を塗りたくったあとの漆黒、と。 この短編集もデビュー30周年記念作にふさわしく、著者にとって集大成的位置づけの短編集である。 …

京極夏彦『虚実妖怪百物語 序/破/急』

この物語はフィクションである――らしい。 確かに冒頭にはそのことが自信なさげに書かれているし、作中には京極夏彦、平山夢明に荒俣宏、水木しげる大先生。さらには各出版社の編集者までもが実名で登場してくる。 だが、その一方で呼ぶ子、朧車、ひょうすべ…

メフィスト評論賞法月綸太郎賞を受賞しました。

本日発売の『メフィスト 2019 Vol.2』にメフィスト評論賞の選考対談&結果が掲載されています。同い年のミステリ作家が多すぎるので評論に転身した……わけではありませんが、僕が書いた「誰がめたにルビを振る」がメフィスト評論賞法月綸太郎賞を受賞しました…

名倉編『異セカイ系』(講談社)

冒頭からフルスロットルで展開される軽妙な関西弁と迫り来るセカイでなろうなメタ物語に惑わされてはいけない。 ここにあるのはどんなに困難で理不尽な運命が立ちはだかろうと、それを乗り越えようと懸命に努力を続ける作者たちの物語だ。そして何があっても…

清涼院流水『ルイス・フロイス戦国記 ジャパゥン』(幻冬舎)

日本の戦国時代とはどんなものだったのか――。 一般的にはあまり知られていない当時の詳しい状況をその目で見つめた宣教師ルイス・フロイスが遺した大量の原稿を、正確な資料と精確な表現によって、誰もが楽しめる歴史物語へと昇華させた希有な作品が本書であ…

田口幹人『まちの本屋』(ポプラ社)

地域のために。 それを念頭に、地方のいち書店を盛り上げていた書店員がいる。 かつて味わった敗北を胸に、かつてその書店にいた偉大な店長の思想を継ぎ、来店者が本を買う土壌を作った上で最適な季節に〝仕掛け〟の花を咲かす。 ふつうの書店員なら、本を売…