坂嶋流記録庫

Inverse Archives

古野まほろ『時を壊した彼女 7月7日は7度ある』(講談社)

 魂がぶつかり合う音が聞こえる――そんな気がした。
 友人を救うため、何度も何度も時を戻して戦う彼女たちの青春がここにある。古野まほろの描く青春は、いつだって命がけだ。だからこそ、秘めた想いを言葉にし、論理と情理がぶつかり合い、望んだ未来を手にしようとする様は読む者の心を打つ。
 デビュー作以来、著者が繰り返し描いてきた高校生、音楽、青春、そして謎とその論理的な解決――本格であること、その集大成にして現時点での最高傑作がこの作品だ。
 法律を学んだものならではの厳密なSFルール設定。吹奏楽経験者ならではの吹奏楽部の描写。ロジック派ならではの数え切れないほどの伏線回収と導き出される事実。たったひとつの鍵を起点に、一気に様変わりする世界。仮説と論理が導き出すのははるか彼方にあったはずの真相で。それを知ってしまった彼ら、彼女らの関係が元に戻ることはない。
 青春は儚い。だからこそ美しい。
 それが古野作品が放つ、比類のない魅力である。
furunomahoro.com

有栖川有栖『カナダ金貨の謎』(講談社)

 もともと有栖川有栖はロジックに定評のある作家ではあるが、有栖川作品における〝ロジック〟とは「これが伏線だったのか」という驚きと、「その伏線から犯人に辿り着くのが可能だったのか」という二重の驚きが重ね合ったものである。
 その視点からこの短編集(短編2作、中編3作)に目を向けると、中編3作ではそれぞれ異なった方法でその定型を崩している。中でも〝これが真相に至る伏線だが、真相を見抜けますか〟とでも言いたげに読者に証拠を見せびらかす1編では『エジプト十字架の謎』が脳裏をよぎった。
 短編ふたつも同様に〝どの情報を読み解けば真相に辿り着けたのか〟=伏線に着目しており、短編集全体として、いつも以上に伏線に力を入れたものになっている。
 有栖と火村の出会いのシーンを再び描いたエチュード、トロッコ問題をヒントにミステリに仕立てたヴァリエイション、田舎を舞台に非都会的な事件が起きるノスタルジアなど、〝手を替え品を替え〟伏線を用いて旋律を奏で続けるコンダクターの技に耳を傾けたい。
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