坂嶋流記録庫

Inverse Archives

有栖川有栖『カナダ金貨の謎』(講談社)

 もともと有栖川有栖はロジックに定評のある作家ではあるが、有栖川作品における〝ロジック〟とは「これが伏線だったのか」という驚きと、「その伏線から犯人に辿り着くのが可能だったのか」という二重の驚きが重ね合ったものである。
 その視点からこの短編集(短編2作、中編3作)に目を向けると、中編3作ではそれぞれ異なった方法でその定型を崩している。中でも〝これが真相に至る伏線だが、真相を見抜けますか〟とでも言いたげに読者に証拠を見せびらかす1編では『エジプト十字架の謎』が脳裏をよぎった。
 短編ふたつも同様に〝どの情報を読み解けば真相に辿り着けたのか〟=伏線に着目しており、短編集全体として、いつも以上に伏線に力を入れたものになっている。
 有栖と火村の出会いのシーンを再び描いたエチュード、トロッコ問題をヒントにミステリに仕立てたヴァリエイション、田舎を舞台に非都会的な事件が起きるノスタルジアなど、〝手を替え品を替え〟伏線を用いて旋律を奏で続けるコンダクターの技に耳を傾けたい。
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SPEC ~結~ 漸ノ篇/爻ノ篇

 超能力を扱ったミステリドラマとしてスタートした本作は、視聴者の予想をはるかに越え、人類を滅ぼす側とその可能性を信じ守ろうとする側との戦いに焦点が移っていく。
 当麻とセカイ、出現させる力と消失させる力。
 それぞれが持つSPECの対照性は、そのまま人類と向き合う姿勢と言えるだろう。
 ただし、これまで描かれていた相手の特殊能力を頭脳で倒すやり方はごく一部を除いてなりを潜め、本作では徹頭徹尾、人類を信じる力であり、その象徴としての絆に焦点が向かっている――未詳の絆、仲間たちとの絆、かつての敵との絆。死んでしまったひとたちとの絆。
 当麻が救いたかったのは曖昧で抽象的な人類ではなく、見知った人たちを含む人類であり、世界だった。だから最終的に描かれる「彼女」との絆はバッドエンドと捉えられがちな結末に、ほのかで暖かな光を投げかけている。
 それこそが希少な展開の先に示された、SPECという物語と視聴者との絆なのかもしれない。
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